そんな転職希望者や就活中の学生さんに本記事を書いています。
Kotobuki転職事典では、M&A業界について、分かりやすく、具体的に突っ込んだ「裏の裏」をリポートします。
M&A業界の「裏の裏」が書ける理由
私自身がコンサルタントとして20年のキャリア、M&A会社と一緒に仕事もしました。酒を一緒に飲みながら聞いた、表に出ないような業界裏話も。近いポジションにいながら利害関係がない、そんな立場で書いています。
ネット検索すると、M&A業界関係者と思しきブログも散見します。でもね、若手の書くM&Aアドバイザー像はどこか片手落ち。経験の浅いアシスタントからすると、データの分析や資料の作成が、M&Aの大事な仕事になりがちです。あながち間違いではないのですが・・・。
なので、本記事では資料作成だけではない、M&Aコンサルタント・アドバイザーの「泥臭い」部分がイメージしてもらえれば。
M&A仲介会社とFA(ファイナンシャルアドバイザリー)
誤解しがちです。
一括りで理解しがちなM&A業者ですが、「仲介」と「FA」に分かれます。もうひとつ企業同士のマッチングサイトを提供する事業者もありますが、ここでは割愛します。
違いを分かりやすく書けばこうなります。
・M&Aの「売りたい会社」と「買いたい会社」の間に入るのが「M&A仲介会社」
・M&Aの「売りたい会社」もしくは「買いたい会社」のどちらかにつくのが「FA(ファイナンシャルアドバイザリー)」
「両者の仲を上手くとりもつ(仲介)」のか「一方の利益のためにガンガン動く(FA)」のかの違いです。
役割は違うのですが仕事内容は案外似ています。仕事内容だけでなく、呼び名も似ています。というか同じです。M&AアドバイザーとかM&Aコンサルタント、それぞれ呼ばれています。立ち位置は違うけど、仕事内容は似ている。そこを理解するには、M&Aの流れを見れば分かります。
世の中のM&Aの90%以上は、「会社を売りたい!」からスタートします。
「買いたい!」からスタートするのは稀なケース
外資系の投資会社が「株を買い占めて、企業の乗っ取りを企てた」なんてニュースを見るものですから、「M&A=企業買収」のイメージが強くあります。
でも日本の会社の90%以上は非上場の中小企業。しかも株式の大半を経営者と親族が持つ同族会社です。
そんな中小同族企業にいきなり乗り込んで、「あんたの会社を売れ」なんて言った所で、怒られるどころか、ちょっと頭のおかしい危ない奴にしか思われません。
だから日本のM&Aの90%以上は、「会社を売りたい!」からスタート。「売りたい側」が主役です。
売りたい側を主役にしたM&Aの流れを分かりやすく書きます。
・相談する
・売りに出す
・相手を見つける
・交渉する
・契約する
流れはこんな感じです。簡単ですね。簡単に書いたから当然です。
でも簡単すぎて、かえって分かり辛いので、流れに沿ってM&Aアドバイザーの具体的な仕事内容を追加します。
相談する
「将来に不安」「後継ぎが居ない」「そろそろリタイアしたい」
そんな事を漠然と考える経営者がたどり着き、M&Aコンサルタントに相談する所からスタートです。このフェーズのM&Aコンサルの仕事内容は次の通り。
情報提供する(セミナーや個別相談会)
セミナーなどを通じて、漠然としたモヤモヤから「M&Aもアリかも?」と思わせる情報提供の場がワンクッション必要です。
相談に乗る
事業内容や財務状況をヒアリングしつつ、M&Aの可能性、幾らくらいで売却可能なのか、ざっくりですが経営者と共有します。
全く買い手が付かないような会社もありますので、相談に乗りつつ企業の値踏みも行います。
企業評価
ヒアリングした内容を持ち帰り、その企業の価値を算出します。つまりは、「幾らで売れるのか?」の値付けをします。企業評価が出来れば、その内容を経営者へ伝えます。
ここまでで、「相談する」のフェーズは完了です。
売りに出す
相談された案件の20~30%が実際に売りに出されます。中には直前で売るのを躊躇する社長も。前半戦の山場です。
このフェーズのM&Aアドバイザーの仕事内容は次の通り。
仲介契約する
自社売却の決断を迫ります。経営者が最も迷う局面です。
最後の最後で「やめておこう」と気持ちが変わる人も。本人の家族や、顧問税理士などが強硬に反対している場合もあります。
ここまで知らなかった経営者の隠し事、M&Aが頓挫しかねないような重大な問題が見つかったりして、愕然とすることもあります。
そんな事で、この局面では毎日のように経営者と会ったり電話で話したり。
最後にアドバイザーが背中を押す必要もあれば、逆に急ぎすぎて最後にボツになることも。
企業概要書を作成する
売りに出すための、その企業のプロフィール資料を作成します。
作成するのは、M&Aアドバイザーの中でも比較的キャリアの浅い、若手社員の仕事になります。
売り先候補をリストアップ
良いプロフィールを作っても、それだけで売り先が見つかることはありません。
買ってくれそうな企業や、買ったらメリットがありそうな企業を、こちらでリストアップします。
M&A業界もリピートユーザーが多いのが特徴。良いM&A会社は、過去にM&A実績のある顧客リストをたくさん持っていて、それがその会社の資産になっています。
ここまでがM&Aの準備作業です。ここまで仕事量が多いものですから、ひと仕事終えたような錯覚をする若手アドバイザーがいますが、ここからが本当の勝負です。
相手を見つける
相手のいないM&Aはありません。良い縁談を探してもってくる、結婚紹介者のような仕事、ここが最も重要なフェーズです。
情報を拡散する
誤解があってはいけません。
売り手の情報はノンネームシートと呼ばれる、簡易なプロフィールで公開されます。業種、エリア、会社規模がザックリと分かるレベルです。例えば、その会社が岡山県の年商3億円の会社だとすれば「中国地方 年商10億円以下」レベルのザックリさです。
このノンネームシート、自社のネットワークや、協力企業のネットワークに流します。通常、M&A会社には、銀行や税理士などの協力ネットワークが存在します。
アポイントを取る
協力ネットワークだけでなく、自分たちも売り先候補リストを元に1件1件アポイントを取って、当りをつけていきます。通常100件程度はリストアップしてしらみつぶし。骨の折れる仕事です。
提案する
アポイント先に対して、売り手企業の概要説明をします。
説明資料に対して様々な質問がでてきます。M&Aの検討を進めるために必要な質問ですので、即答できないものは後日調べた上で回答します。
プレゼンテーションと質疑を進めながら、M&A成約の可能性を確認します。
交渉相手を決める
独占交渉か?複数の候補の中から選ぶのか?
M&Aの交渉相手を決めるのは売り手側です。買い手側の意向を確認しつつ、売り手と協議しながら交渉相手を決定していきます。
交渉する
トップ面談をセッティングする
売り手と買い手が顔合わせを行います。
まさに企業同士のお見合い。お互いが理解、納得いくまで複数回開かれることもあります。面談内容はビジネスのことはもちろん、その会社の文化やトップの価値観まで及びます。
企業訪問をセッティングする
設備や会社の雰囲気を確認するため、売り手企業訪問のセッティングをします。逆に買い手企業を訪問する場合にあります。この時点では社員にはM&Aの話は一切していないため、企業訪問は秘密裏に行わないといけません。
条件交渉の調整
買収価格や引き継いだ社員の処遇、M&Aの時期など、双方からの希望を元に条件を調整します。買い手企業から時にシビアな条件が出ることもあり、間に立つ立場は非常にストレスのかかる局面です。
合意を引き出す
金額面や時期について、大まかな条件が合意に至ったら、基本合意契約を結びます。
基本合意契約は、M&Aにとってひとつの区切りですが、これがゴールではありません。
この後、M&Aに向けて具体的な手続きに入るスタートラインに立ったと言えます。
契約する
買収監査
買い手が売り手を調査し、これまで提出された資料と、実態に乖離がないかを確認します。買収監査は買い手側の会計士や弁護士が行う事になり、M&Aアドバイザーが主体的な役割を果たすことはありませんが、スムーズにプロジェクトが進むようアドバイザーの役割も重要です。
最終条件の交渉
最終の条件や細かい事項の決定を行います。基本合意契約の内容と買収監査の結果に差異があったものを中心に調整していきますが、基本的には値下げ交渉など、売り手にとって厳しい内容となります。
最終契約のセレモニーを行う
契約を締結し、買収金額を納めた上でセレモニーを行います。
社員や取引先への公表
ここで売り手企業の社員や関係先にM&Aの事実を伝えます。伝え方次第では、社員の退職や、協力先や販売先の離脱などのピンチを招きます。細心の注意でもって公表することが求められます。
この後も円滑に融合が進むようなサポートが求められますが、ここから先は違ったスペシャリストが担うことになるでしょう。
M&Aアドバイザーの裏話
ここまでご覧のように、M&Aの仕事は多岐にわたります。
求められる専門性、コミュニケーション力はじめビジネスパーソンとしての高い能力はもちろんですが、マルチタスクで仕事を進めるスピードや、長時間労働に耐えうる体力も必要です。
しかし、それだけに留まりません。
次に紹介するようなドラマ人間模様、トップ同士が真剣にぶつかり合うから起こる摩擦、その間に立つものが受けるストレス。大きな責任を負うプレッシャー。
平均在籍年数2~3年、本当に厳しい世界です。
M&Aに進むのは20~30%
M&A仲介会社に持ち込まれる相談のうち、M&A案件として進むのは20~30%。
進まないのは、社長の気が変わって没になる場合もありますが、その多くは「既に手遅れ」なケース。M&Aコンサルは「危ない企業」「近く倒産しそうな企業」の情報を持っています。もちろん守秘義務があり、口外することはありませんが。
真実は闇の中
末期状態で相談をされる社長の多くは真実を語りません。
真実を言わないどころか、過分な脚色、ごまかし、噓八百、余りに抽象的で雲をもつかむ様な儲け話に延々と付き合わされることになります。豪華な接待までされだしたら危険信号。
派手な話と出される料理、廃墟のようなボロボロ社屋とのギャップに、背筋が凍る思いをすることも。
桁が2つ違う
企業評価で「売れない」「二束三文でしか売れない」など、シビアな事を伝えなければならず、本人が想像していた額と乖離(桁が2つや3つ)あり、ショックを受けたり、怒り出したりする経営者も。
30年間死に物狂いでやってきた会社の価値が「たった●●万円」。残酷な話でもありますが、アドバイザーの出す数字は客観的なものですので、納得してもらわなければいけません。
業界の事が全く分からない
M&A用の資料を作成にあたっては、初めて聞くような業界だと、まず理解するまでに四苦八苦します。
例えばスーパーマーケットや携帯電話ショップならイメージできますが、化学メーカーとか、ニッチな技術を持ったソフトウェア会社なんてことになると・・・。
納期が迫る中、若手社員に大きな負荷がかかります。しかも日中は客先へ訪問している事が多く、おのずから資料作成は帰社後や土日になります。家へ帰れないことも。
無能でない上司
M&A会社の管理職はプレイングマネージャーです。いやむしろプレーヤー8割にマネージャー2割。プレーヤーが主。アドバイザーとして有能で高い実績を挙げた人がマネージャーに就きますので、ドラマに出て来るような無能上司は存在しません。
自分がやってきた事だから当然部下も出来るだろうというスタンスです。
ある意味、一人前として認められ、責任のある仕事を任せられていると言えますが、逆に言えば放任され、自分だけで仕事をコントロールすることを当然のように求められます。
極秘情報がバレてしまう
ノンネーム情報は一般公開されますので、どこの企業か分からないように書きますが、たまに勘の良い人に当てられてしまうことも。というのは、業界内で元から経営不振の噂が出ていたりするので、なんとなく業界の人なら分かる訳です。
いずれにせよ、まかり間違って売り手の情報が外部に漏れれば、信用問題どころか、訴訟にもつながりかねませんので、慎重に慎重を重ねて情報を扱う必要があります。
M&Aコレクター
大企業の経営企画部門の担当者に多いパターンです。
片っ端からM&Aの情報公開を求めてきて、その都度、プレゼンに行くのですが、一向に話が進まないのです。そのような人は、M&A情報を集めるのが趣味なのか、仕事をしている感を上司にアピールしたいのか、いずれにせよM&Aアドバイザーからすると要らない相手です。
謎の企業訪問
トップ面談後の企業訪問。いきなり見ず知らずの客人を社長が連れてくる。従業員からすると謎の行動ですが、この時点で従業員の誰もM&Aとはイメージがつかず、数日すればそんな事も忘れていきます。
後になって、「あ、、、あの時の?」となる訳です。
恐怖の買収監査
買収監査でアドバイザーが気づかなかったような会社の問題点が発覚した時、買収価格が大幅に引き下げられることでしょう。生きた心地がしないとは、まさにこの事です。
怒られるくらいで済めば良いのですが、交渉が決裂したり、損害を与えてトラブルになったり、大問題に進展することも。
ハードな事ばかりのM&Aアドバイザーですが、良い事もある訳です。
会社に関わる人達の人生を預かる
人生を預かっているのは社長だけでなく、働く従業員や、家族の人生がかかっている仕事です。M&Aは会社に関わる人達が幸せになる仕事です。
途中に難局が待ち構えていたりしますが、ゴールまで到達できると、周りから感謝され、何物にも代えがたい達成感と、やり遂げた自信を得る事ができます。
結果が年収にも
これだけの激務に耐えるM&Aアドバイザーの年収は当然かもしれませんが、他業種や同年代と比べて極めて高いです。
M&A仲介大手、日本M&Aセンターの平均年収は30代前半で1500万円。上場企業の中でも上位にランクインされる平均年収です。
日本M&Aセンター高年収の秘密は、こちらの記事に書いています。
M&Aコンサルタントへの転職方法
ここまでお読みいただき、有難うございました。
M&Aコンサルタントの仕事内容と、裏側にある激務やプレッシャーの理由について書きました。
まずは1年間、耐えられそうですか?
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書類選考をパスする経歴書の書き方、面接対策、もっといえば、そもそもM&Aの仕事に向いているのか、転職のプロからアドバイスが受けられます。
この記事を読む大半の方は業界未経験者でしょうから、転職エージェントのサポートを受けることが賢明です。
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今回はここまで。
ありがとうございました。