児童発達支援管理責任者(通称:児発管)の将来性について検証します。
この記事を書く私は、人事コンサルタントして20年のキャリア、その後は事業会社で役員をしています。
児発管が働く放課後等デイサービス、児童発達支援事業所を経営しているので、業界の将来性について、現場の温度感や、政府の発表など多くの情報を集めつつ分析・意思決定する立場です。
いきなりですが、最初に結論です。
私は、児発管の将来性について、次のように考えています。
・児発管(障害児支援)の仕事は、これからも増え続ける
・とはいえ、今の「超売り手市場」は、いずれ落ち着く
・児発管には更に高度な専門性が求められる
このように考えるポジティブな理由2つと、ネガティブな理由2つについて、この記事では解説しています。
それでは、進めて参りましょう。
児童発達支援管理責任者(通称:児発管)とは
「児発管のことは、よく知っているよ」という方なら、この段落は飛ばしてOKです。
とはいえ、業界未経験の方には、なかなか馴染みがないのが児発管の仕事。
はじめに児発管の仕事内容を、かいつまんで説明します。
児童発達支援管理責任者とは、放課後等デイサービスや児童発達支援センターなどの障害児支援施設で行うサービス(「療育」と言います)をリードする役割です。
具体的には、障害を持った子どもが、日常生活をおくるのに必要な知識などを習得。
集団生活や社会生活に適応できるよう、子どもの特性に合わせた個別支援計画を作成し、現場で療育に従事する指導員へアドバイスを行い、計画の進捗を保護者や行政と管理する仕事です。
児発管のもう一つの仕事は、教室の管理者としての役割です。
厳密に言えば、児発管と管理者を兼任する必要はないのですが、ほとんどの事業所では児発管が管理者を兼任しているようです。
教室の責任者として、問い合わせや見学者への対応、契約業務、毎月の請求業務、小口現金の管理、スタッフの労務管理、収支管理等を行います。
児発管の仕事は好きだけど、管理者の仕事は苦手という人もいれば、リーダーシップを発揮して優れた事業所を作り上げる児発管もいて、そこは様々です。
まとめると、教室マネジメント、障害児家庭へのコンサルティングが児発管の仕事です。
増え続ける発達障害児
発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、その他これに類する脳機能の障害と定義されています。
その症状は一人ひとりで異なります。
「じっとしていられない」「文字を読むことが難しい」「周りの子どもとコミュニケーションが取れない」などの症状が主に挙げられます。
発達障害児童は近年増え続けていると言われ、文部科学省の調査によると、小学1年生の約10%が「学習面又は行動面で著しい困難を示す」というデータも。
40人学級に例えるとクラスに4人の割合です。
このあたりは、どこで線引きをするのか、国の基準で異なります。
基準次第では20%を超えるヨーロッパの国もあったりします。
増加の背景として、発達障害が社会で認知されだしたというのも関係があるでしょう。
一昔前なら、「ちょっと変わった子」で片付けられていた子が、今から思えば発達障害だったのかも。
芸術家や起業家、学者に発達障害が多いと言われます。
映画のスピルバーグ監督、マイクロソフト創業者のビルゲイツさんなどは発達障害であることを公言しつつ、世界的に活躍されています。
個々の特性を活かすことで特別な才能が開花する事から、以前よりポジティブに受け入れられているようです。
児発管の仕事は超売り手市場
児発管の数が足りていません。
障害児支援施設は、未就学児を対象とした児童発達支援が約6800事業所、小学生以上を対象とした放課後等デイサービスが約14000事業所あります。(令和元年実績、両事業所は一部が重複するため、全体数値としては17000事業所程度かと思われます)
一方で、障害児支援施設に通っている発達障害児の数ですが、地域やサービス、年齢により差はあるものの、6歳児でおよそ35%。
充分にサービスが行き届いているとは言えない状況です。
詳しくは後述しますが、国も障害児支援に力を入れています。
事業所は国や都道府県から手厚いサポートを受けています。
そのため現在も事業所の数は増え続けています。国保連のデータによれば、平成27年から令和元年の5年間で、放課後等デイサービスの事業所数は約2倍に増えました。
一方で国は平成29年より児発管の要件を変更、より専門性を求める方向に舵を切りました。
それまで「みなし児発管」として施設で働いていた方が資格喪失、各地で児発管が不足する事態となりました。
その結果、こんな事がいま起きています。
児発管の配置基準がクリアできず開所できない
障害児支援施設を開所するには、児発管を配置する義務があります。
児発管を求人募集するものの採用できず、各地で需要があるのに新規開所できない状況となっています。
私の知人の会社でも、教室は既に完成しているのに、児発管が採用できずオープンの目処が立っていないなんて事態になっています。
児発管の給与が上昇
児発管の数が足りない売り手市場となれば、当然給料は上昇します。
新規開校に伴う求人募集に月給35万円以上を提示する大手事業者も出て来ています。
これまでの業界水準である月25万円と比べれば、約10万円の給与アップです。
高い給与の事業所へ、転職する児発管も多いみたいですし、保育や幼稚園、介護業界からの転職もあるようです。
保育士の求人サイト、ジョブメドレーの掲載情報を元に独自調査したところ、東京圏で児発管の平均給与は月272,642円となりました。
児発管の平均給与については、こちらの記事に詳しく書いています。
https://kotobuki.blog/1493/
児童発達支援管理責任者(児発管)の将来性は?
児発管の将来性についての考察が今日の本題でした。
冒頭に書きましたが、事業に従事する者として、私はこのように考えています。
・児発管(障害児支援)の仕事は、これからも増え続ける
・とはいえ、今の「超売り手市場」は、いずれ落ち着く
・児発管には更に高度な専門性が求められる
考える理由は次の通りです。
サービスが充分に浸透していない
障害児支援サービスの利用は対象児童の約30%。
国が9割も負担するサービスが、充分に浸透しているとは言えません。
浸透しない理由は3つ。
サービスを広められない国の責任、保護者の理解不足、そして事業者の経営努力不足です。
社会で活躍するタレントや芸術家をみて、あるいは発達障害の関連本がよく売れていることから、保護者の意識は変わりつつあります。
ネガティブな印象のある「発達障害」の呼び方を変えようとの動きもあります。
また教育関連の大手企業が事業に参入、「国に守られた温い業界」に、健全な競争原理が持ち込まれていますので、サービス面で良くなっていくことでしょう。
これらの事から、今後、障害児支援サービスの利用率が40%、50%と高くなることは充分に予想できます。
国が戦略的に力を入れる分野である
欧米諸国は、戦略的に幼児教育に力を入れています。
それが自国の発展につながることを、彼らは知っているからです。
例えばフランスでは義務教育の開始年齢をこれまでの6歳から3歳へ引き下げました。
アメリカでは「ギフテッド教育」と呼ぶ、天才だけを集めた、通常の義務教育とは全く違う英才教育プログラムを始めています。彼らの多くが発達障害児童です。
遅ればせながら、日本もこれに続こうとしています。
安倍内閣が幼児教育を無償化にしたのも、この流れを受けたものです。
また東京大学が天才児を集めた英才教育をスタートしました。
WHO(世界保健機構)の加盟国の中で、障害児支援の予算が他の先進国と比較して少ないとの指摘があるようです。
このような事からも、国が行う障害児支援は将来的にも手厚くなると考えています。
児発管の「数」はやがて足りる
児童発達支援管理責任者になるには要件は2つあり、1つは実務経験、もう1つは研修受講です。
児発管になるまでのフローです。
分かりにくいですが、例えば保育士資格を持って、保育所に3年以上勤務している方なら、児発管への「最初の1歩」といえる基礎研修を受けることができます。
相談支援業務とは、利用者からの相談に応じ、助言や指導などの支援を行う仕事。児童相談所等の相談施設や、障害児相談支援事業の就業実績が対象となります。
一方、直接支援業務の内容は幅広く、保育所や認定こども園、幼稚園、事業所内保育事業等での就業実績も対象です。
どのような実務経験が対象となるか、また児発管の要件については、こちらの記事で詳しく書いていますので併せてご覧ください。
https://kotobuki.blog/128/
児発管のための研修ですが、都道府県ごとに毎年1回、多い所で3回ほど開催されています。
聞けば、どこの研修も毎回定員オーバー。受講すること自体が難しい状況です。
となると、仮に1回の研修で50名受講したとして、全47都道府県より毎年2350名の児発管が誕生する計算となります。
事業所の数が15000超ですので、数が充足されていくのは明らかですね。
児発管の要件は厳しくなる
国が公的なサービスを始める時は、最初ハードルを下げて広く参加者を募り、後から少しずつハードルを上げるのが常とう手段です。
児発管の仕事もご多分にもれず、いまはハードルを下げて数を増やしている段階。
今後は、児発管に求める要件は厳しくなり、専門性が不足する児発管をふるいにかけて落とす方向に間違いないです。
その証拠に、令和3年度より児発管の要件が改正されました。
詳細は割愛しますが、より専門的な実務経験と多段階の研修受講を求めています。
今後もハードルが高くなることが予測されます。
児発管の仕事を始めるなら、早い方がおすすめです。
児発管の仕事を探すには?
児発管になるには、
・障害児通所支援事業所へ児童指導員として転職、実務経験を積みつつ研修受講する
これが最も一般的なルートかと。
障害児通所支援事業所には、児童発達支援、放課後等デイサービスが含まれます。
これ以外の児童福祉事業や児童福祉施設への転職もありますが、そもそも施設の数が限られるため、児童発達支援や放課後等デイサービスへの転職が一般的です。
特に、保育士や教員免許、介護福祉士などの資格があれば、必要な実務経験が無資格者より短縮されます。
児童指導員(児発管候補)の仕事は求人サイトから探すことが出来ます。
一般の求人サイトからでも見つけることは出来ますが、保育士や介護士向け専門サイトの方が掲載数は多いです。
おすすめは、求人募集の数が圧倒的に多い、保育士求人【ジョブメドレー】一択です。
ジョブメドレーは、医療介護に特化した求人を展開するメドレーが提供する、求人案件数日本最大級の保育士専門求人サイトです。全国の求人情報が掲載され情報が豊富です。
全国1000件以上の児発管の求人情報が掲載されていますので、国内全事業所の20%が使っているイメージ、ダントツの掲載数トップです。
ジョブメドレーに掲載中の児童指導員の求人情報の一部をご紹介します。
【東京都】児童発達支援施設 児発管・児童指導員(児発管候補)募集
・仕事内容:個別支援計画の作成、保護者面談、事業所の管理業務、療育プログラム作成 ・給与: 月給 280,000円 〜 350,000円 ・応募要件: ・休日:週休2日制(日曜、他1日、土曜出社日あり)、年間休日115日 |
【栃木県】オープニングスタッフ 児童指導員(児発管候補)募集
・仕事内容:児童発達支援の業務全般、主に現場で中心となり子どもの支援・療育 ・給与:月給 190,000円 〜 250,000円 ・応募要件:児童指導員の資格要件を満たす方(児童指導員任用資格) 休日:土日、祝日休み |
保育士求人【ジョブメドレー】の上手な使い方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
児発管としておすすめの転職先は?
保育や介護の現場経験の長い方が初めて障害福祉サービスに転職するとなると、「未経験だけど大丈夫かな?」そんな心配が出てくるかも。
他業界から転職するなら、まずは大手企業が無難です。
大手をおすすめする理由①
大手は教育・研修体系がしっかりしていること。入社時の集合研修やOJT、ビデオ研修ななどで専門教育を体系的に学べます。
今後は児発管に高度な専門性を求めてきますので、「単に居るだけの児発管」は排除の対象。専門教育はマストです。
大手をおすすめする理由②
研修終了後は既存の教室に配属、指導員として働きます。先輩児発管から指導を受けつつ、良い部分を真似て吸収します。
こういう事が出来るのも事業所の数が多く、受け入れ環境の整った大手だからこそです。
障害児支援サービス業界の大手企業をまとめました。
https://kotobuki.blog/1405/
また初めてだと分かりにくい、「放課後等デイサービス」と「児童発達支援」の違いは、こちらを参考にしてください。
https://kotobuki.blog/1067/
まとめ
発達の遅れが気になるお子さんに向けて、国が支援する障害児支援サービス。
現在、サービスの担い手となる児発管が不足している上、将来性も期待できる分野。
児童福祉のプロとして道が広がり、一生の仕事となるこの仕事、要チェックです。