不動産業界(宅建資格)のプロに求められる調査力は次の3つ。
・現地での調査力
・法務局での調査力
・役所での調査力
調査力が無いと、その不動産のリアルを知る事ができないので、例えば「不動産の本当の価値も知らず、その不動産の持ち主にちょっとヤバい事情があることも知らず」お客様へ提案するようなものです。
この大事な3つの調査力について順番に書いていきます。
この記事を読むことで、調査することの重要性と調査方法を知る事ができます。
この記事を書く私は人事コンサルタントとして20年のキャリア。その後は事業会社の役員をしています。いまの事業は店舗ビジネスのため不動産を取り扱う機会が多く、不動産会社の方ともよく一緒に仕事をしています。
私自身も、仕事の必要性から3年前に宅建資格を取得しました。
調査力のない宅建士が本物のプロと呼べない理由
以前に、私は次のような記事を書きました。

この記事では「宅建オワコン(将来性なし)」の理由と、その中での生き残り戦略について書いています。
単なる資格保有者でなく「不動産取引の本物のプロになれ」と書いていますが、プロに求められる大切なスキルの1つが「調査力」です。
調査力が大切な理由は次の通りです。
・不動産の持つ「本当の価値」が理解できる
・取引成功の鍵を握る人とお金の関係を知ることができる
・取引の障壁になる法令上の問題の解決方法が分かる
調査力のない宅建士は、つまるところ、その不動産の価値も分からず、背景にある人間関係やお金の事も知らず、何か法的な問題が起こった時は手詰まり状態になる人。
そんな人から不動産を薦められても、ちょっと不安しかないですよね。
では、どのような調査力が求められるのか、一つずつ見て行きましょう。
現地の調査力
現地調査の重要性は、ネット情報などの公開情報や人から伝え聞いた話では分からない、不動産のリアルを知ることです。
具体的な話をしてみましょう。
不動産に表面上の価値がある一方、誰もまだ気付いていない面があるとどうなるでしょう?
表面上の価値>本当の価値
1億円で売りに出されている不動産ですが、実際には7000万円の価値しかない、そんなパターン。
例えば、設備の劣化が激しくて購入価格以外に大規模な改修が必要なケース、近隣住民とトラブルを抱えているケース。
こんな不動産を知らずに売ってしまえば、後々トラブルになるし、信用もされません。
この業界で生きていく上では「The End」です。
表面的な価値<本当の価値
逆のパターンもありますね。
他の人にとっては7000万円の価値も、買う人によれば1億円の価値になることも。
例えば高齢者が多く住むエリアの不動産なら、保育園の経営者より介護事業者の方が魅力的に見えるでしょう。
安く買って、価値を認める人に高く売る。商売の鉄則のような話です。
その不動産に価値を持つのは誰か? そのために、まず現地調査です。
現地調査の具体例
現地調査の具体的な進め方は、オーナーや関係者へのヒアリング、書類の確認、現地視察の3点です。
その不動産だけでなく、自分の足で歩いて周辺環境を体感すること、地域の類似物件も見ておく事、また1回の調査で済まさずに、晴れの日・雨の日、日中・夜間、平日・休日と条件を変え複数回訪れること。
様々な角度から、その不動産を観察することにより、その不動産の本当の価値が見えてきます。
現地調査について更に突っ込んで知りたい方は、こちらの本に初心者にも分かるように丁寧に書いています。
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法務局での調査力
法務局で調査をすると、「不動産とは生々しい」のが分かります。
なぜなら法務局へ行けば、その不動産の人間関係と台所事情が記録されているからです。
不動産には持ち主がいます。
それぞれの持ち主には、それぞれの事情があります。
金持ちの持ち主、借金まみれの持ち主、持ち主が複数いるケース、ちょっとヤバ筋の土地等々。
法務局で調査すれば、不動産が単なる土地や建物でなく、そこに様々な人間模様やお金事情が付いている事が分かります。
法務局での調査内容
法務局は、国民の財産や身分に関する法律事務を扱う法務省の地方組織です。
その中でも不動産登記は、土地や建物について,所在地や面積のほか,所有者の住所・氏名などが記録されていて、さらには一般にも公開されています。
法務局での調査とは、この不動産登記の内容について調査する訳で、具体的な調査内容は「権利関係」と「財務力」です。
簡単に言えば、「誰が」「どこを」所有しているか、また「どれだけ」のお金を借りているのかです。
法務局での調査で明らかになること
現地の確認やヒアリングで得た情報の裏付けを取るのが法務局での調査の目的です。
例えば、法務局で調査することで、次のような事が判明するかも。
・現況は家屋が建っているけど、本来は農地で建物を建てることができない土地
・現在の所有者と登記されている所有名義人の名前が違う土地
・この不動産を買っても、現在設定されている抵当権が抹消されない
単に事務手続上の問題なのか、問題含みの取引を持ち掛けられているのか、法務局の登記内容を全て鵜呑みにすることは出来ませんが、いずれにせよ登記情報が「注意が必要」と教えてくれます。
世の中に不動産登記情報がなければ、詐欺やペテンが横行し、安心して不動産取引できないかもしれないですね。
「地面師」という詐欺集団に他人の土地を売り付けられて55億円の被害にあった「積水ハウス事件」。大きなニュースになりましたから、記憶のある方もいるでしょう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58828
法務部門を抱える大企業でも騙される訳です。不動産取引には、このようなトラブルや損害を被るリスクがついて回ります。
不動産取引によるリスクを回避するためにも、法務局での調査は重要です。
法務局での調査対象
法務局の調査は不動産登記簿謄本の取得からです。
さらに公図、地積測量図、建築図面・各階平面図が入手可能です。
これらの書類により、不動産の物理的状況、所有者に関する情報、抵当権や根抵当権の設定状況、土地の形状や位置関係などが調査できます。
法務局の調査内容について、より詳しく知りたい方は、こちらの本に初心者でも分かるように解説されているので、ご覧ください。
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役所での調査力
役所に調査へ行く目的は、その土地に建築可能な建物の条件を判断する事です。
ちょっと分かりにくいかもしれないので、事例を挙げて理解を深めましょう。
・その土地ではホテルを建築することは出来ない
・そもそも今ある建物を取り壊した場合、新しく建物を建てることが出来ない
・その土地では道路から〇メートル下がらないと建物が建てられない
・その土地では〇メートル以上の高さの建物が建てられない
ざっとこんな感じで、土地や建物には様々な制限がつきます。
そして制限を受ける理由は、その土地や建物にまつわる様々な法律があるからです。
ちなみに宅建資格でも、「法令上の制限」は試験範囲に含まれ、全50問中8問、毎年この分野から出題されています。

宅建資格試験で「法令上の制限」は「丸暗記がキモ」と言われ、よく語呂合わせを推奨する講師もいますが、実務の世界では「語呂合わせではシャレにならない」重要な領域です。
役所の調査力で大切なこと
役所での調査力に求めるのは2つ。
「関連する法律の理解」と「質問力」です。
土地や建物に関する法律で有名なものとしては、「建築基準法」「都市計画法」「国土利用計画法」「農地法」などが挙げられます。
ちなみに、不動産業界の中でも、関わる領域や業界により必要な法律、もっと言えば条文が違うため、ある特定分野に関して深く知ることになるようです。
宅建(不動産取引)は、法律家というより実務家ですので、広く全般的に知ることにはなりにくいです。
役所でのNG質問
役所へ調査に行く訳ですが、役所の特徴として次のような傾向があります。
・役所は担当が細分化されていて、自部署以外の質問には答えてくれない
・役所は質問した事には答えてくれるが、質問以外の事は教えてくれない
・役所からの回答は、往々にして一般的、保守的なものである
そして最も言いたいこととしては、
・同じ不動産でも、質問の仕方で結果が大きく変わる
ということです。
信じられないかもしれませんが、同じ土地でも、Aさんが質問すれば「建築NG」となるものでも、Bさんが質問すれば「建築OK」となる場合があります。
これは魔法を使っている訳でも、もちろん政治力を使って裏から手を回している訳でもありません。
法律の知識と、役所の特徴を知っていれば、質問の仕方で結果が変わるという事です。
タネを明かせば、Aさんは不動産の法令上の制限について質問をしたため、役所の担当者は法律の制限について答えており、一方でBさんは制限を理解した上で、「どのようにすれば建築OKとなるか、必要な要件について」質問しているから、担当者はOKになる要件について答えるのです。
質問の仕方で結果が大きく変わってくるので、今回ご紹介した役所の調査力は重要です。
役所で調査すべき事は多種多様、経験と日ごろの勉強がものを言う分野であり、不動産取引のプロとして、違いを生み出せる分野でもあります。
調査力まとめ
不動産のプロになるために必要な3つの調査力について書きました。
宅建資格を取っても実務で通用する知識を得ることは出来ません。
むしろ中途半端に知識があると、余計なことに気が回り、ロクな結果にならない宅建士をたくさん見て来ました。
本物のプロを目指すなら、実務の中で知識を得ることが大事ですが、3つの調査力は宅建士が経験値をあげる上で役立ちます。
今回記事は、こちらの本を参考に書きました。
不動産業界を目指す人、宅建資格取得の次を勉強したい人、不動産投資に関心のある人、不動産投資を始めたばかりの人などにはピッタリの実務書です。
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